「お母さん、早く早く!」
「キャリーナ、そんなに急がなくても、森は逃げないわよ」
「森は逃げないけど、魔物は逃げちゃうかもしれないよ」
今日はみんなで森へお出かけ。
ポイズンフロッグをやっつけてる間はずっとお留守番だったキャリーナ姉ちゃんは、お父さんお母さんとの久しぶりのお出かけに大興奮。
お母さんの手を引っ張りながら、僕たちの先頭を歩いてるんだよね。
で、僕たちが今向かってるのはどこかって言うと、実は冒険者ギルド。
そこで名前を書いてメダルをもらわないと、イーノックカウに帰ってきた時に入街料を払わなくちゃいけなくなるからなんだ。
「お待ちしておりました。人数分のメダルはすでに用意してありますよ」
でもギルドに着くと、ルルモアさんが僕たち全員分のメダルを用意して待ってたもんだからびっくりしちゃった。
だから、何で? って聞いてみたんだけど、そしたら、
「昨日、ルディーン君が家族みんなで森に狩りに行くと言っていたじゃないですか」
初めから森に入るのが解ってるんだから、用意するのは当たり前でしょ? って笑ったんだ。
森へ行く時にもらうメダル、これって実は街に帰ってきた時にお金を払わなくてもよくなるように渡してくれてるんじゃないんだって。
「冒険者のほとんどは街の居住権を持っていないでしょ? だからもし帰ってこなかったとしても、この制度が無ければだれも気が付かないかもしれないんですよ」
イーノックカウに住んでる人たちが街から出ると、その時に必ず記録が残るそうなんだ。
だからもし森に薬草を採りに行ったのに夜になっても帰ってこなかったら、門にいる兵隊さんがその人のお家まで確認しに行くんだって。
「初めから森の奥へ分け入ってその日は帰ってこないつもりだったのならいいけど、もし違ったら大変でしょ? だからそれがすぐに解るようにしてあるのよ」
「なるほど。でも冒険者だとそう言う制度がないから、その代わりにこのメダルの貸し出しをしているんですね」
名前を書く時に、何しに行くの? って聞いて、それがもし森の奥へ行くご用事だったら、必ずいつごろ帰ってくるかを聞くんだって。
そうする事で、誰がちゃんと帰ってきてて、誰が返ってこないのかがすぐに解るようにしてるんだってさ。
「そっか。帰ってこなかったら助けに行かないとダメだもんね」
「本当にルディーン君の言う通りだし、もしそれができたら一番なんだけど……」
「帰ってこないのが解るんでしょ? 助けに行かないの?」
「冒険者ギルドから人を出す事は無いわ。あっでもその代わり、いなくなった人と仲の良かった別の冒険者に帰ってこない事を知らせるようにしてるわよ」
狩人をお仕事にしてる僕たちの村の人たちほど安全に気を使ってるわけじゃないけど、冒険者の人たちだって自分たちだと危ないって思うとこには行かないようにしてるんだって。
だってそうしないと、強い魔物とかに会って死んじゃったりするからね。
なのにその冒険者さんが帰ってこなかったら変でしょ?
だからそんな時は森の中でいつもと違う事が起こってるかもしれないから、それに気付けるようにってのがこのメダルを持って行ってもらう一番の理由なんだってさ。
、
「なるほど、今回のポイズンフロッグ騒ぎは森に入口近くまで冒険者が引っ張ってきてしまったから大事になったけど、もしこれが森の奥で起こって誰にも知られずにその冒険者が死んでしまっていたら、もっと大事になっていたかもしれないな」
「ええ、その通りよ。それにカールフェルトさんたちが見つけてくれた幻獣もそう。多分ルディーン君が居なかったら多分誰か犠牲者が出る事で初めてギルドが気付くことになっていたでしょうね」
そうなったら大変なんだけど、でもそれが解んなかったらもっと大変なのよねってルルモアさんは言うんだ。
「犠牲者が出ないに越した事は無いわ。でもその犠牲が誰にも知られなくって、そのせいでまた新たな犠牲者を生むことだけは避けないといけないのよね」
でもね、全部の冒険者さんたちがメダルを取りに来るわけじゃないんだって。
なんでかって言うと、動物や薬草なんかは森の入口にある商業ギルドが買い取ってくれるかららしいんだ。
「森の入口は屋台街みたいになってるでしょ? だから商業ギルドで狩ったり摘んできたりしたものを買い取ってもらえるなら、わざわざ街に帰ってくる必要がないって考える人もいるのよ」
「なるほど。街に入らなければ入街料も取られないし、そんな生活をするのであれば次はいつ冒険者ギルドに顔を出せるか解らないからな」
「ええ。この頃は前のポイズンフロッグ騒ぎがあったおかげでずっとあそこに居座る人は殆どいなくなってたけど、その騒ぎも収まったという事でまたいずれ、元通りになってしまうでしょうね」
困ったものよねぇって。ほっぺたに手を当てるルルモアさん。
でも、商業ギルドがやってる事だから冒険者ギルドからは何も言えないし、そこにお店を出してる人たちもその冒険者さんたちがいなくなっちゃったら大変だからどうしようもないんだってさ。
「ねぇねぇ、商業ギルドの人にも冒険者ギルドみたいにメダルを出してもらえないの?」
「言えば用意してくれるでしょうけど、多分無駄よ。だって、そのメダルを持って森に入るメリットがないもの」
冒険者ギルドのメダルは持ってれば街に入るお金がいらなくなるけど、森の外にある露店街には入るためのお金がいらないでしょ?
だからわざわざ商業ギルドまで行ってメダルをもらう人なんて誰もいないだろうから、無駄なお金を使うのはやめときましょうって言う話になってるんだって。
「この制度のおかげで、冒険者さんたちの安全が保たれてるんだけど……」
「まぁ防具にかける鐘をケチって大怪我をする冒険者も多いくらいだから、そう言われても面倒だってやらないやつが多いのは仕方ないですよ」
街に入るお金がタダにならなかったら、冒険者ギルドのメダルだって採りに来る人は殆どいないですよって笑うお父さん。
ルルモアさんもそう思ってるみたいで、そうなのよねぇってしょんぼりしちゃったんだ。
「まぁそんな連中をどうにかしようと思っても無理なんだから、ルルモアさんがそんな顔をする必要はないですよ」
「そうですね。少なくとも冒険者ギルドに来る冒険者さんたちはメダルと取りに来てくれているんだし、それによって森の異変をいち早く知る事も今までに何度かできているんですから」
「そうそう。じゃあ俺たちも、その手助けをするためにメダルをもらって森へと行くとしますか」
「そうだよ、お父さん。早く森に行こ!」
やっと森に行くような感じになった途端、キャリーナ姉ちゃんはお父さんに向かっておっきなお声でそう言ったんだ。
難しいお話をしてるからって今までは静かにしてたけど、ここまで来る時にお母さんの手を引っ張ってくる位森へ行くのを楽しみにしてたんだもん。
そりゃあこんなとこでお話してるより、早く森へ行きたいよね。
今回の話はちょっと、いやかなり難産でした。
書く内容が決まっていて、あらすじまできちんと文字にしていたのに、いつもの倍以上書くのに時間がかかってるんですよね。
なのに、あまり面白くないとw
ああホント、どこかに文才落ちてないなかなぁ